朗読を専門とするアナウンサー有志からなる「あざみ色朗読隊」は、17日に金沢医療センターで朗読会を開催した。朗読会は2014年10月に金沢海みらい図書館で開催した「あの頃を思い出す 重松清」以来5ヵ月ぶり。精神科の閉鎖病棟という特異な環境のなかでの企画の難しさを振り返る。
2015年02月28日 08時32分 | 木村洸
朗読会は17日の午後2時から、兼六園に近い国立病院機構の金沢医療センター(金沢市下石引町)で行われた。当日は精神科の患者約15人とスタッフ数人が談話室に集まり、あざみ色朗読隊によって読みあげられる星野道夫作『アラスカの詩 めぐる季節の物語』と重松清の『小学五年生』に収められている短編小説『バスに乗って』に耳を傾けていた。あざみ色朗読隊のなかから4学年の笈田紗希・前朗読隊長、3学年の角梨夏子アナウンサーと舘川千晶・前アナウンス部チーフ、2学年の七尾育実アナウンス部長、1学年の新海直人・朗読隊長の計5人が担当したほか、技術部と総務部から数人がサポートした。
『アラスカの詩 めぐる季節の物語』からは、詩『冬』を朗読した。紀行文のような文章で、作者であり写真家である星野道夫が撮影した写真とともに紹介。「文が短く、感情をこめて読む作品だったので、初心者でも十分朗読できた」と笈田さんは振り返った。また『小学五年生』の『バスに乗って』は、2014年10月の金沢海みらい図書館での朗読会でも一度披露した作品。編成を一部変更し、パート分けも見直したが、朗読隊にとっては慣れ親しんだ物語だった。2作品のほか、これまでの朗読会と同様、出張ラジオの放送も行った。今回は14日のバレンタインデーの直後ということもあり、七尾さんと新海さんが、日本におけるバレンタインデーの発展や流行についてトークを繰り広げた。
あざみ色朗読隊は2012年に前身の「アナウンスやり隊」が結成されて以降、図書館や病院、大学関連施設で朗読会を重ねてきた。2013年9月には大人編とこども編の2回に分けて、金沢市宝町の金沢大学附属病院で朗読会を開催したが、学外の病院は朗読隊にとって初挑戦だった。
さらに、朗読会を開催した精神科病棟は、病棟の出入り口が施錠されていて、患者が自由に出入りできない、いわゆる閉鎖病棟である。特異な環境のなかで、入院患者に向けたイベントを開催する団体は少なかった。医師が行う院内コンサートなどにも、精神科の患者だけ参加できないということが多かった。それに加えて、「金沢医療センターでは外部の団体が入ることは少なく、学生は滅多にない」と職員は述べた。「あざみ色朗読隊の方針は、『会いに行く』『地域に出向く』ということ。ニーズを探し、地域に根ざした活動ができたことは、朗読隊のコンセプトにぴったりだった」と笈田さんは語る。
「今までの朗読会と違って、患者さんの病気の話を聞きに行ったり、題材選びでも病院の人の意見を参考にしたり、自分で統合失調症などの精神病について調べるなど、いろいろな配慮が必要だった。朗読というパフォーマンスを行うことよりも、地域の人に寄り添う、理解するというところに重きを置いた」と笈田さんは振り返る。新海さんも、「私たちが医療センターで朗読会を行わないと、ほかに催しを開く人は少ないだろう、ということは、歓迎のされ方からも伝わった。高齢者も多く、精神科ということで心配もあったが、結果的には成功した」と述べた。 医療センターの職員も「患者やスタッフから『よかった』『楽しかった』などの感想がたくさん寄せられた。初めての試みで、いろんな苦労があったと思うが、大成功だった」と述べた。
今回の朗読会には、新たに角さんも加わった。これまで高校時代から朗読や放送を経験していた他の隊員に対し、角さんにとって今回は初めての朗読となった。試験期間と重なって十分な準備期間が確保できないなか、笈田さんや舘川さんも懇切に指導にあたった。「朗読隊の裾野が広がった。地域貢献・社会貢献をしたい人なら自由に企画に加われる、いいモデルケースになった。角さんの参加には大きな意義があった」と、笈田さんは語る。
角さんも、初めての朗読に対して不安があったと振り返る。「初心者ということでプレッシャーもあったが、発音や間の置き方は笈田さんたちにたくさん指導してもらえた。病院の方もしっかり耳を傾けて、楽しんでくださったみたいでよかった」と話す。
その笈田さんは今春、金沢大学を卒業する。医療センターでの朗読会は、4学年の笈田さんが成し遂げた最後の企画となった。朗読隊の発起人は、「web-KURSは元々アナウンスや朗読をするメンバーが少なかったが、いまの3学年が入学して、アナウンス・朗読経験者がたくさん入ってきた。活動の場を作らなければと思って始まったのが朗読隊だった」と、朗読隊を立ち上げた経緯を振り返った。「朗読隊は地域に寄り添って、自己満足ではない活動を続けてほしい。地域の方も朗読隊も、互いが楽しめて交流できるような場が、これからも実現していけば嬉しい」と、朗読隊の未来図を描く。「みんなと朗読ができて楽しかった。とても幸せだった」。
バトンを引き継ぐ1学年の新海さんは、「今回は、2学年と1学年のメンバーも参加することで、世代交代の起点となる朗読会になったと思う。これからは次世代のメンバーで頑張っていく」と、5月以降に予定されている金沢海みらい図書館での2回目の朗読会に向けて、気を引き締めた。
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